Dietro Casa by Guido Guidi
どこか奇妙な雰囲気と遊び心に溢れたグイド・グイディのヴィジュアルジャーナル。本作は、取り立てて見るところのない小石の山のイメージで幕を開ける。1980年代のイタリアという過ぎし日々を彷彿とさせる本作において、この小石の山は物語のペースを決めるメトロノームの役割を持つだけでなく、かの偉大なウォーカー・エバンス(Walker Evans)へのオマージュにもなっている。猫が道を横切り、なんとなしに心惹かれる家の裏(Dietro Casa)という空間を友達同士で探検し、我々の視界を越えて多重露光のような幻が現れ、少女がこの本の見せる優しい夢から目を覚ます。その流れの中で、小石の山の姿やサイズは少しづつ変化していく。自由自在にカメラを操る作者の優れた技量が、写真にパフォーマンスと映画の要素を付け加え、極めて優美な舞台を作り上げている。またこの舞台をベースに花開いて続く3冊の本のトーンも、本書で見事に設定されている。
Clayton’s Ascent by Jason Fulford
ジェイソン・フルフォードらしい独特のユーモアが光る、示唆に富んだシークエンスとレイアウトの使い方が秀逸な本書は、1冊目のグイド・グイディによる『DIETRO CASA』の魅力をさらに引き立てる。1997年から2003年にかけてアメリカをバイクで旅しながら撮影した写真は、謎めいた予兆に満ちた鮮やかな飽和色で塗りこめられ、現実に存在するものと人の手で作りだされたものとの間に曖昧な境界線を引く。1835年に実施され歴史にその名を残した9時間の気球の旅から名付けられた本書において、作者は「観察者」と「主人公」という2足の草鞋を履いている。美しくも荒々しさが残るアメリカの風景から屋内競技場の観覧席の最上段へ、視点はシーンからシーンへと移りゆく。最後に我々は天を仰いで空に上昇し、遠ざかっていく地球に雲の上から別れを告げる。
Confederate Moons by Gregory Halpern
アメリカ本土を太平洋側から大西洋側まで縦断するルートを通った2017年8月21日の皆既日食は「The Great American Eclipse」と呼ばれ、全米を熱狂させた。この非常に珍しいつかの間のイベントを撮影するにあたり作者は、ノースカロライナ州とサウスカロライナ州をその舞台に選択。前回、アメリカ全土を横断する皆既日食が発生したのは1918年7月8日だった。この天体の偶然が生み出したドラマと、そのすぐ前後に起きた人生における重大な出来事がどのように交差しているのか作者の興味は傾いていた。本書アイデアが皆既日食から来たことは疑いようもないが、その結果として生まれた本作は、最終的にアメリカの現状や何が我々を引き裂き、あるいは1つにまとまっていくのかという考察に転じている。
Heliotrope by Viviane Sassen
本書内のイメージを通じて、ヴィヴィアン・サッセンは直近の旅で訪れたエチオピア、モロッコ、モザンビーク、セネガル、そして南アフリカ共和国で撮影した写真を如何に作品にし編集するか新しい方法を模索した。本書は作者の過去の作品とは全く違う新しい方向性を見せており、同時にまだ幼子に過ぎない写真という媒体が無限の技術的な可能性に満ちているということを示唆している。